太陽光発電のリパワリングとは、経年劣化によって低下した発電量を改善・増強させることです。太陽光パネルやパワーコンディショナ(パワコン)は使用年数の経過によってその性能が徐々に劣化していきます。太陽光発電所では建設当初に比べて発電量が毎年低下していきます。
FIT制度で売電できる期間は20年と限定されているため、発電事業者の皆様は売電期間内にできるだけ多くの発電量を生み出したいと考えておられると思います。上述の通り、機器の経年劣化によって発電量は低下し続けるため、何らかの対策を講じなければ太陽光発電所の収益力も落ち続けることになります。
本記事では発電量の低下を抑えるだけでなく発電量を発電所運転開始時の水準に戻したり、場合によっては運転開始時よりも発電量が増える可能性がある方法について解説していきます。なお、発電量の低下は太陽光パネル・パワコン等の機器の経年劣化だけが原因ではありません。木・電柱等の影や太陽光パネルの汚れなどが原因で発電量が大幅に低下することもありますので、遠隔監視システムや定期点検等で発電所の状況・状態をしっかりチェックしていく必要があります。
発電量の低下については下の記事で詳しく解説していますので是非ご一読ください。
太陽光発電所は設備・機器の経年劣化によって発電量が低下していきますが、経年劣化するすべての設備・機器を修理・交換するのはコストや効果の面で現実的ではありません。太陽光発電所のリパワリングでは、「パワコンの交換」・「オプティマイザーの導入」という2つの方法(両方または一方)が取られることが多くなっています。
パワコンは太陽光パネルで発電した直流の電力を交流に変換するものです。精密な電子機器であり、半導体等の部品が徐々に劣化していきます。
通常の使用による劣化以外に、高温や湿気に弱いなど設置されている場所の条件によっても劣化スピードが早まることがあります。
パワコンの劣化によって電力の変換効率が悪くなっていき、売電できる電力が少なってしまいます。
また、パワコンはエラーで停止したり突然故障が発生することも多いので、定期的に発電量をチェックして売電ロスを最小限に抑えることが重要です。
パワコンの寿命は約10年から15年と言われています。
多くのメーカーが保証期間を10年や15年に設定しています。
パワコンが故障すると修理や交換が完了するまでの間、売電収入が大きく落ち込むことになります。
保証期間まで使用し続けるのではなく、発電量のチェックや発電設備の点検によってパワコンが劣化していることが判明した場合は、速やかにパワコンを交換することが太陽光発電投資において重要です。
FIT制度が導入された初期に建設された発電所においては、当時のパワコンに比べて最新のパワコンの変換効率が向上しているため、既設のパワコンが故障していなくても最新のパワコンに交換することで発電量(売電量)を増加させることができます。
上述の通り、古いパワコンは経年劣化によって変換効率が悪くなっていることに加え、万一パワコンが故障すると修理・交換までの間の売電収入が大きく落ち込むため、故障していなくても最新のパワコンに交換する方が費用対効果の面で有効となる場合があります。
太陽光パネルでは影や故障等の影響によって太陽光パネルの一部のセルの発電量が減るとバイパスダイオード(※)が動作して、発電量が落ちたセルを迂回して電流が流れます。太陽光パネルは直流で接続されており、直流で接続された回路では電流は全て同じ値になります。したがって、不具合等が発生したセルがある太陽光パネルの発電量が減少するだけではなく、同じストリングに繋がれている他の太陽光パネルの発電量も減少してしまいます。
バイパスダイオードについて
バイパスダイオードは、太陽光パネルに影がかかった場合等にそのパネルの発電量が大幅に低下することを防ぐためのものです。
故障や影等で不具合が発生しているセルがある場合に、直列に接続されたセルの中で当該セルを迂回して電流を流すことにより、1つのセルの不具合がパネル全体に及ばないようにします。
一般的な結晶系の太陽光パネルにはパネル裏面のジャンクションボックスにバイパスダイオードが3個取り付けられています。
不具合が発生したセルを含む回路のバイパスダイオードが動作すると太陽光パネルの1/3のセルが発電に寄与しなくなります。
つまり、その太陽光パネルの発電量は通常の3分の2になります。
また、バイパスダイオードは故障することがあります。
故障の原因は様々ですが、バイパスダイオードに過剰に電流が流れると発熱し、焼損事故に至るケースもあります。
バイパスダイオードの故障は目視では確認できないため、点検時に測定器等を利用することが重要です。
太陽光発電では、電流と電圧の組み合わせで出力される電力量が変化します。(電流×電圧=電力)
太陽光パネルが受ける日射量は気象条件によって変化しますが、それぞれの日射量によって電流と電圧の最適な組み合わせは異なります。
それぞれの気象条件の下で最大の発電量を取り出すことができるようにするシステムを最大電力点追従機能(MPPT(Maximum Power Point Tracking))といいます。
一般的な太陽光発電システムでは、パワコンにこの機能が搭載されています。
影等の影響によって発電量が異なる太陽光パネルが1台のパワコンに接続されている場合、発電量の低い太陽光パネルに合わせて他の太陽光パネルも発電量が制御されます。
正常に発電できる状態の太陽光パネルも発電量が抑えられ、本来の発電能力を生かせないことになります。
全体から見ればごく一部分の不具合であっても、その影響は他の太陽光パネルにも及ぶことになり発電量(売電量)の大きな落ち込みの原因となります。
オプティマイザーはこのような問題を解決できる装置です。
通常はパワコンが制御している最大電力点を太陽光パネルごとに制御します。
オプティマイザーを設置することで、太陽光パネルごとに最大電力点で出力できるようになります。
つまり、電流が小さい場合には電圧を上げ、逆に電流が大きい場合には電圧を下げることで各太陽光パネルを最適な電流・電圧で動作させ、同じストリング内の他の太陽光パネルに影響を与えないようにすることができます。
(例)太陽光パネルの一部に影がかかると、影がかかった太陽光パネルの発電量が低下します。オプティマイザーを導入している太陽光発電システムでは、同じストリング内であっても影がかかっていない太陽光パネルは発電量を維持することができます。
また、パワコンだけでなく太陽光パネルも経年劣化していきます。
太陽光パネルは設置当初と同じ発電能力が維持できるものではなく、徐々に発電量が減少(経年劣化)していきます。
経年劣化は太陽光パネルごとに異なる速度で進行していくため、劣化速度の違いによって比較的劣化が遅い太陽光パネルも劣化が進んだパネルの影響を受けて発電量が低下してしまいます。
太陽光パネルの経年劣化以外の要因には、製造時の個体差や工場から発電所までの輸送時の損傷などもあります。このような場合も、発電能力が最も劣る太陽光パネルがストリング全体に影響を及ぼすことになります。いずれの問題もオプティマイザーを導入することで防ぐことができます。
以上、太陽光発電所のリパワリングで主に採用されることが多い「パワコンの交換」・「オプティマイザーの導入」を紹介しました。
繰り返しにはなりますが、発電量を改善・向上させる対策を講じるためには、太陽光発電所の現状を正しく把握しておくことが重要です。
毎月(または日々)の発電量のチェックや、定期的な点検が不可欠です。
太陽光パネルやパワコン等の機器に異常が発生していなくても、太陽光パネルが汚れていたり、木・電柱・建物等の影が太陽光パネルにかかっていると発電量が減少します。
太陽光発電所の敷地内の雑草の草刈りや太陽光パネルの清掃・洗浄は適切な時期に行えばコストを抑えることができます。
影の原因が建物であれば当該建物の撤去は困難ですが、ストリングの組み換えによって影響を最小限に抑えることができる方法もあります。
パワコンは太陽光パネルに比べて寿命が短くなっています。
運転開始から10年程度経過している太陽光発電所ではパワコンメーカーの保証期間が終了していたり、あと数年で終了するという状況がほとんどです。
このような太陽光発電所では、故障や保証期間終了を待たずに最新のパワコンに交換するケースが増えています。
パワコンが故障して発電が止まる前に交換することで売電収入のロスを抑えることにもなります。
太陽光発電所のリパワリングにはいくつかの方法がありますが、いずれも費用が発生します。
かける費用と得られる効果(売電収入の増加)を比較して実際に行うかどうかを判断することになります。
発電量の改善・向上による売電収入の増加分がかけたコストよりも大きくなる場合は、できるだけ早くリパワリングを行うことが太陽光発電投資の収益性を上げることにつながります。
FIT制度では売電期間は限られており、できるだけ早くリパワリング(発電量UP)を行うことで売電期間中の売電収入を増やすことが可能になります。
また、パワコン等を最新機器に交換することで売電期間中にメーカーの保証期間が切れる問題もなくなります。
この記事を書いた人:澤井 孝夫
株式会社バイタルフォース代表取締役
太陽光発電投資によって売電収入を得ている方は日々の発電量を意識されていると思います。
今回はこの発電量についてと発電量を改善・向上させる方法について説明していきます。
太陽光発電において発電量は基本的な知識として既にご存じの方も多いと思いますが、改めて確認していきます。
目次
まず、発電量について簡単におさらいしていきます。
(パネルの種類(単結晶・多結晶等)やセルやモジュールの変換効率、その他用語等に関する説明は割愛させていただきます。)
発電量は次の式で求められます。
年間発電量(kWh/年)= 1日あたりの年平均日射量 × システム容量× 損失係数 × 365 ÷ 1
日射量とは太陽から受ける放射エネルギーの量のことで、単位は「kWh/㎡」です。
上記式では1日あたりなので単位は「kWh/㎡/日」になります。
システム容量とは設置した太陽光発電のシステム容量のことで、単位は「kW」です。
損失係数とは太陽光発電が発電する上で発生する損失のことです。
太陽光パネルの種類やパネルの汚れ、温度上昇等によって出力が損失します。
NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)は損失係数を0.73としていますが、発電事業者等が発電所建設前に作成する発電シミュレーションでは損失係数を0.85としているケースが多いようです。
上記式の「365」は年間の日数、「1」は標準状態における日射強度(kW/㎡)を表しています。
(1日の発電量は、「1日あたりの年平均日射量 × システム容量× 損失係数」で計算できます)
計算例:
年平均日射量4.13kWh/㎡/日の場所にシステム容量10kWの太陽光発電設備を設置、損失係数を0.73とした場合の年間発電量
4.13(kWh/㎡/日) × 10(kW) × 0.73 × 365(日) ÷ 1(kW/㎡) = 約11,004(kWh/年)
発電量を計算する式に「kW」と「kWh」の2つの単位が登場しています。
この2つの違いについて説明します。
・「kW」キロワットと読みます。
「kW」は電力の単位で、太陽光パネルの発電能力(出力)を表します。
・「kWh」はキロワットアワーと読みます。
「kWh」は電力量の単位で、発電量を表します。
10kWのシステムを6時間発電させた場合、10 × 6 = 60kWhの発電量となります。
発電量の計算式は単純化すると「日射量」 × 「システム容量」 × 「損失係数」となります。
それぞれの数値は大きければ大きいほど発電量が増加します。
本記事は既に太陽光発電所を保有されている方や稼働中の太陽光発電所を取得される方を主な対象にしていますので、「日射量」と「システム容量」は基本的に変更が難しいものとしていますのでご了承ください。
「損失係数」を大きくするということは損失(発電量が下がる要因)を減らすことになります。
(損失(発電ロス)が20%の場合は損失係数0.8、損失が30%の場合は損失係数0.7となります)
発電量が下がる要因としては主に次のようなものがあります。
太陽光発電は太陽の光をパネルで受けて発電するという仕組みです。
したがって、雨や曇りの日には発電量が減少してしまいます。
太陽光パネルは25度前後の気温で最も発電効率が良くなります。
気温が25度以上になってしまうと、発電効率が下がるため発電量が減少します。
日差しの強い夏は発電量が増えると思われがちです。
しかし、夏は気温も高くなるため太陽光パネルの温度が上昇して発電効率が悪くなってしまい、結果として発電量も落ちてしまいます。
一年の中で発電量が最も高くなるのは、気温がそれほど上昇せず日射量もそれなりにある春頃だと言われています。
太陽光パネルの表面に汚れがつくと、発電量が落ちます。
太陽光パネルの汚れとしては落ち葉や鳥の糞、粉塵や埃、花粉や黄砂などがあります。
太陽光パネルの部分的な汚れであっても、そのパネルだけでなく回路全体に影響して発電量が大幅に低下するので注意が必要です。
太陽光パネルの汚れと同様にパネルに影がかかると発電量が低下します。
影の影響についても汚れと同様にそのパネルだけでなく回路全体に影響が及び発電量が大幅に低下するので注意が必要です。
太陽光発電システムの法定耐用年数は17年となっています。ただし、太陽光パネルが17年で使えなくなるわけではありません。
太陽光パネルの寿命は20年から30年程度と言われています。全ての太陽光パネルが上記のような寿命となるわけではなく、パネルの種類やメーカーによって差が出ます(日本国内には40年近く発電している太陽光パネルもあります)。
太陽光パネルは設置当初と同じ発電能力が維持できるものではなく、徐々に発電量が減少(経年劣化)していきます。
太陽光パネルの経年劣化はパネルによって異なりますが、概ねNREL(米国・国立再生可能エネルギー研究所)が発表したデータによると、太陽光パネルの劣化率の中央値は年間約 0.5%となっています。劣化率 0.5%というのは、太陽光パネルの発電量が年間0.5%の割合で減少することを意味しています。
これは、20年目の太陽光パネルの発電量が1年目に比べて約90%の発電量となることを意味します。
NREL参考資料
https://www.nrel.gov/state-local-tribal/blog/posts/stat-faqs-part2-lifetime-of-pv-panels.html
https://www.nrel.gov/docs/fy15osti/65040.pdf
パワーコンディショナ(パワコン)の寿命は約10年から15年と言われています。
パワコンは太陽光パネルで発電した直流の電力を交流に変換するものです。
精密な電子機器であり、半導体等の部品が徐々に劣化していきます。
通常の使用による劣化以外に、高温や湿気に弱いなど設置されている場所の条件によっても劣化スピードが早まることがあります。
パワコンが劣化すると電力の変換効率が悪くなっていきます。
変換効率が悪くなるということは売電できる電力が少なくなるということになります。
なお、パワコンはエラーで停止したり突然故障が発生することも多いので、毎月(あるいは毎日)発電量をチェックすることが重要です。
発電ロスが発生する主な要因は上記の通りです。
天気や気温等は発電事業者がコントロールできませんが、太陽光パネルの汚れを落とすなど発電事業者が対処して発電量の改善を行うことができることもあります。
ここからは発電量の改善・向上のための方法について説明していきます。
多くの太陽光パネルには汚れが付きにくいようにパネル表面に加工が施されています。
雨や風によってほとんどの汚れは除去されます。
ただし、雨・風等で自然に除去されない汚れもあり、これが蓄積して太陽光パネルの発電能力が低下することがあります。
雨・風で自然に除去されなかった土・砂や落ち葉等の汚れは、太陽光パネルの清掃や洗浄を行うことで除去できます。
太陽光パネルの清掃・洗浄は自分自身行うこともできますが、太陽光パネルの表面を傷つけてしまうなどの恐れがあるため専門業者に依頼することが推奨されています。
(太陽光パネルに傷をつけてしまった場合、メーカー保証が受けられない可能性があります)
また、鳥のふんや太陽光発電所の近隣で行われている工事等が原因で太陽光パネルに付着したセメント・塗料等は通常の洗浄では除去しきれないことが多いため、専門業者に依頼することが望ましいです。
発電量の低下が発生した際、太陽光パネルやパワコンの機器に問題がなかった場合はパネルの汚れを確認することも必要です。
また、太陽光発電所の定期点検時にパネルに汚れがないか確認し、必要があればパネルの清掃・洗浄を行うことで発電量の低下を防ぐことができます。
花粉や黄砂が付着しやすい春先はパネル洗浄に適していません。
太陽光パネルの洗浄を行う時期として梅雨明け後が推奨されています。
これは梅雨の間は太陽光パネルについた汚れが雨によって流れ落ちるため、自然に落ちなかった汚れだけが残ることで、パネル洗浄のコストを抑えることができるからです。
影を作る原因をなくすことができれば影問題は解決しますが、原因をなくすことが困難なケースがほとんどです。
影の原因をなくすことが困難な理由としては、原因となっている木や建物が自分自身の所有物ではないことが大半だからです。
建物を撤去してもらうことはほぼ不可能ですし、木についても伐採を許可してもらえないこともあります。
このように影の原因をなくすことができない場合、どのように対処すればよいのでしょうか?
上述の通り、影がかかった場合はそのパネルだけでなく回路全体に影響が及んで発電量が大幅に低下します。
影がかかっているパネルだけでなく他にも影響が及ぶのはなぜでしょうか?
太陽光発電では、太陽光パネルを直列に繋いでいます。
複数の太陽光パネルを直列に繋げた単位を「ストリング」と言います。
直列に繋いだストリングを並列に組み合わせることで太陽光発電システムを構成しています。
影がかかるなどして1枚の太陽光パネルの発電量が低下すると、同じストリングの他の太陽光パネルの発電量も低下してしまいます。
影をなくすことができないのであれば、他のパネルへの影響を最小限に抑えることになります。
このためには、ストリングの一部が影の影響を受けて発電量が低下したとしても、他のストリングでは発電量が落ちないようにできます。
影のかかり方によって配線の組み換え方法が異なります。
横向きの配線を縦向きに変更するのが良いケースのほか、コの字やUの字等に複雑に配線していく方法もあります。
配線の組み換えには高いコストがかかる場合もあります。
したがって、発電量改善によって得られる利益と配線変更にかかるコストを比較する必要があります。
ストリングの組み換えが得になるのであればできるだけ早めに対応することをお勧めします。
本記事では発電量が落ちる原因と改善策等について解説しました。
弊社では「発電量調査サービス」を無料で実施しております。
もし下記のような心配・不安がある場合は遠慮なくご相談ください。
・シミュレーション値と比べて発電量が低い
・発電量は妥当なのか?
・最近発電量が落ちてきたような気がする
・パネルやパワコン等の故障の可能性はあるのか?
・太陽光発電所の売却を検討しており、売却価格を査定してほしい
この記事を書いた人:澤井 孝夫
株式会社バイタルフォース代表取締役
インボイスとは請求書という意味です。インボイス制度においては、所定の要件を満たす請求書(適格請求書)を指します。売り手が発行した適格請求書を受け取った買い手が消費税の仕入額控除をすることができるという制度です。なお、「請求書」という名称になっていますが、請求書以外にも領収書や見積書、納品書等、載要件を満たしているものは適格請求書(インボイス)として取り扱うことができます。今回はこのインボイス制度がスタートすることによる太陽光発電投資への影響について解説してみたいと思います。
目次
適格請求書(インボイス)とは
まずは適格請求書(インボイス)とは何か、基本のキから解説します。
適格請求書(インボイス)とは、売り手が買い手に対して正確な適用税率や消費税額等を伝えるためのもので、現行の「区分記載請求書」に「登録番号」、「適用税率」及び「消費税額等」が追加された書類やデータのことです。
(注)「区分記載請求書」並びに「登録番号」については後ほど説明します。
適格請求書(インボイス)を発行できるのは「適格請求書発行事業者」に登録した課税事業者だけになります。
課税事業者であっても「適格請求書発行事業者」に登録していなければ適格請求書(インボイス)を発行することはできません。
また、免税事業者のままでは適格請求書の発行はできません。
現在免税事業者の方で、適格請求書を発行できるようにしたい場合は、課税事業者になった上で「適格請求書発行事業者」に登録する必要があります。
適格請求書(インボイス)の扱い方
売り手である登録事業者は、買い手である取引先(課税事業者)から求められたときは、適格請求書を発行しなければなりません(発行したインボイスの写しを保存しておく必要があります)。
買い手は仕入税額控除の適用を受けるために、原則として取引先(売り手)である登録事業者から発行を受けた適格請求書(インボイス)の保存等が必要となります。
では、インボイス制度による太陽光発電投資への影響について説明していきます。
太陽光発電投資への影響は次の2つがあります。
・売電収入への影響
・太陽光発電所売却への影響
現在は、売電事業者(売り手)が課税事業者・免税事業者のどちらであっても電気を買い取る電力会社による仕入税額控除が可能となっています。
2023年10月にインボイス制度が開始されると電力会社が仕入税額控除を行うためには売電事業者(売り手)が適格請求書発行事業者に登録する必要があります。
既にFIT認定を受けている発電事業者が課税事業者の場合、インボイス制度が開始される2023年10月までに適格請求書発行事業者となる必要があります。
また、2023年度以降に新たにFIT認定を受けようとする売電事業者で、課税事業者に該当する場合はインボイス発行事業者としての登録を行うことがFIT認定の要件となります。
一方、免税事業者の場合は適格請求書発行事業者の登録は不要です。適格請求書発行事業者としての登録がなくても現行の買取価格が変更されることはありません。また、2023年度以降に新たにFIT認定を受ける場合も、免税事業者はこれまでと同様に適格請求書発行事業者としての登録がなくてもFIT認定を受けることが可能となっています。
(注)売電事業者が免税事業者である場合、電力会社の納税負担が増えることになります。そのため、将来的には法改正等が行われ、消費税分の価格が差し引かれたり、適格請求書発行事業者としての登録が義務化される可能性があります。
仕入税額控除とは
消費税の納付は、課税期間中の課税売上に係る消費税からその課税期間中の課税仕入等に係る消費税(仕入控除税額)を控除して計算します。
課税仕入とは、事業のために他の者から資産の購入や借り受けを行うこと、または役務の提供を受けることをいいます。ただし、非課税となる取引や給与等の支払は含まれません。
課税仕入となる取引には商品・原材料等購入の他、広告宣伝費等の支払いがあります。詳しくは次のサイトを参照ください。
給与等の支払は課税仕入とはなりませんが、加工賃や人材派遣料のように事業者が行う労働やサービスの提供の対価には消費税が課税されます。したがって、加工賃や人材派遣料、警備や清掃などを外部に委託している場合の委託料などは課税仕入となります。
仕入額控除の計算例としては以下の通りとなります。
本体価格500円の商品を税込550円(本体500円、消費税50円)で仕入れて、税込880円(本体800円、消費税80円)で販売した場合、販売先から預かった消費税80円から仕入で支払った消費税50円を差し引いて、30円を納付することになります。
この場合、販売時に受け取った消費税80円から仕入時に支払った消費税50円を差し引く「80円 − 50円」が仕入額控除になります。
(注)仕入税額控除の計算方法には、「全額控除」・「個別対応方式」・「一括比例分配方式」・「簡易課税制度」の4種類があります。
これらは、売上の何割が課税対象になるかを示す課税売上割合や課税売上高により決まります。
実際の仕入税額控除額の計算を行う際には課税期間を通じて最も適した計算方法を選択します。
仕入税額控除を行うためには、必要事項が記載された帳簿及び適格請求書発行事業者が発行した適格請求書(インボイス)の保存が要件になります。
免税事業者等の適格請求書発行事業者ではない相手からの仕入については、原則として仕入税額控除の対象になりません。
現在は3万円未満の課税仕入については、請求書がなくても帳簿の記載だけで仕入税額控除を認める規定があります。
しかし、2023年10月のインボイス制度の導入後はこの規定が廃止され、原則として適格請求書(インボイス)が必要となります。
インボイス制度は2023年10月1日から開始され、適格請求書発行事業者のみが適格請求書を交付でき、消費税の仕入税額控除の適用を受けることができます。
現在(2023年9月まで)は免税事業者からの仕入であっても仕入税額控除が可能です。
しかし上述の通り、インボイス制度が導入される2023年10月からは免税事業者から仕入れた際は仕入税額控除ができなくなります(ただし、経過措置があります)。
インボイス制度が開始される2023年10月以降に課税事業者が免税事業者等の適格請求書発行事業者以外と取引を行う場合、免税事業者等が発行する請求書では仕入税額控除ができなくなります。
(注)インボイス制度実施後6年間(2029年10月まで)は免税事業者等からの仕入についても仕入税額相当額の一定割合を控除可能とする経過措置が設けられています。
インボイス制度開始後に太陽光発電所を売却する際の影響について考えていきます。
(ⅰ)買い手が課税事業者である場合には、売り手が買い手に対して適格請求書(インボイス)を交付すれば買い手は仕入税額控除の適用を受けることができます。
(ⅱ)買い手が免税事業者の場合、免税事業者は仕入税額控除を行わないので適格請求書(インボイス)を必要としません。
このように、適格請求書発行事業者が売り手となって太陽光発電所を売却する場合、買い手が課税事業者であっても免税事業者であっても売り手の側に特に影響は出ません。
(ⅰ)買い手が課税事業者である場合には、買い手が仕入税額控除の適用を受けるためには売り手が交付する適格請求書(インボイス)が必要になります。
しかしながら、売り手は適格請求書発行事業者でないためインボイスを交付できず、買い手は仕入税額控除を行うことができません。
(ⅱ)買い手が免税事業者の場合、免税事業者は仕入税額控除を行わないので適格請求書(インボイス)を必要としません。
免税事業者等が売り手となって太陽光発電所を売却する場合、買い手が課税事業者である場合には売り手の側に何らかの対応が必要になる可能性があります。
上記の②−(ⅰ)の場合、買い手は仕入税額控除を行うことができません。
仕入額控除ができないということは、買い手の納税額が増えるということになります。
そうなると、買い手からは消費税分を値引きしてほしいという価格交渉があると予想されます。
現在免税事業者で、インボイス制度導入後も免税事業者のままでいると消費税の納税義務がないというメリットがある一方、販売価格の引き下げや取引先の範囲が限定されるというデメリットもあります。
既述の通り当面は売電収入に影響はありませんが、今後の法改正等によって免税事業者は消費税分の収入が差し引かれたりする可能性があります。
今後、そのような動きがあった際には免税事業者はインボイス制度に登録することを検討することも必要でしょう。
太陽光発電所を売却する側が適格請求書発行事業者であれば特に問題はありません。
免税事業者が太陽光発電所を売却する際は、既述の通り買い手からの価格交渉や買い手が見つかりにくいという可能性があります。
そのため、現在太陽光発電所の売却を考えている免税事業者はインボイス制度が始まる前の2023年9月末までに太陽光発電所を売却してしまうことで消費税の問題をクリアできます。
つまり、自分は益税を受け取れる一方、相手先(買い手)は仕入税額控除を行うことができます。
では、免税事業者がインボイス制度に登録した場合はどうなるのでしょうか?
インボイス制度に登録すると免税事業者としてのメリット(消費税を納税しなくてよい)を失って消費税の納税義務を負うことになります。
一方で適格請求書を交付することができるため、太陽光発電所を売却する際に買い手(課税事業者の場合)は仕入額控除を行えます。そのため、買い手からの消費税分値引き等の価格交渉を最小限に抑えられるでしょう。
また、インボイス制度に登録すると消費税の納税義務がありますが、簡易課税を利用すれば事務負担が大幅に軽減されます。
さらに、免税事業者が適格請求書発行事業者となった際に利用できる「2割特例」の対象事業者であれば、この2割特例を利用する方がよい場合があります。
(注)2割特例を利用しない方がよいケースもあるので税理士等の専門家に確認してください。
2割特例について
免税事業者がインボイス制度の導入を機にインボイス発行事業者として課税事業者になったとき、税負担・事務負担を軽減するため、売上税額の2割を納税額とすることができます。
納税額が預かり消費税の2割に収まることから「2割特例」といいます。対象となる事業者
免税事業者からインボイス発行事業者になった事業者(2年前(基準期間)の課税売上が1000万円以下等の要件を満たす)
対象となる期間
令和5年10月1日~令和8年9月30日を含む課税期間
※個人事業者は、令和5年10~12月の申告から令和8年分の申告まで例:売上800万円(税額80万円)※サービス業。経費200万円(税額20万円)
実額計算の場合:80万円-20万円=60万円
簡易課税の場合:80万円-40万円=40万円 ※80万円×50%(サービス業のみなし仕入率)
これが特例の場合には、
80万円×2割=16万円
となります。
通常、消費税の申告を行うためには経費等の集計やインボイスの保存等は必要となります。
この2割特例を適用すれば、所得税・法人税の申告で必要となる売上・収入を税率別(8%・10%)に把握するだけで申告書が作成できます。
事前の届出は不要で、申告時に適用するかどうかを選択します。
ここまでインボイス制度スタートによる太陽光発電投資への影響について解説しました。ここからは一般的なインボイス制度の解説を行います。
売り手は買い手の求めに応じてインボイスを交付します。
インボイス(適格請求書)を交付するためには適格請求書発行事業者になる必要があります。
適格請求書発行事業者になるためには、税務署にインボイス発行事業者の登録申請書を提出して適格請求書発行事業者として登録を受ける必要があります。
適格請求書発行事業者として登録を受けることができるのは課税事業者だけです。
免税事業者の場合は、事前に課税事業者になるための手続が必要となります。
適格請求書発行事業者の登録を受けると割り当てられる番号のことで、事業者ごとに異なる番号になります。
登録番号は次のようになります。
・法人番号を有する課税事業者
「T」(ローマ字) + 法人番号(数字13桁)
・上記以外の課税事業者(個人事業者、人格のない社団等)
「T」(ローマ字) + 数字13桁(注)
登録番号は、適格請求書(インボイス)を交付する際に記載する必要があります。
なお、登録番号は国税庁の適格請求書発行事業者公表サイト(https://www.invoice-kohyo.nta.go.jp/)で検索が可能なので、免税事業者が虚偽の番号を請求書に記載しても相手にバレます。
インボイス制度が2023年10月に開始された後は、適格請求書以外の請求書では仕入税額控除を受けられません。
取引先が適格請求書発行事業者であれば適格請求書を交付してもらうことで仕入税額控除を受けられます。
一方、免税事業者等の適格請求書発行事業者ではない相手との取引がある場合、課税事業者は仕入税額控除を受けられません。
しかし、インボイス制度開始から一定の期間内は適格請求書発行事業者以外からの課税仕入の場合でも、仕入税額相当額の一定割合を仕入税額とみなして控除できる経過措置が設けられています。
この経過措置により、課税事業者は適格請求書発行事業者以外からの請求書でも一定割合の仕入税額控除を受けることができます。
仕入税額控除の経過措置期間は次のとおりです。
2023年10月1日〜2026年9月30日:80%控除
2026年10月1日〜2029年9月30日:50%控除
2029年10月1日〜:控除なし
計算例:課税事業者が免税事業者から5,500円の商品を現金で購入(80%控除の場合)
消費税の計算上、課税仕入にかかる消費税500円のうち、20%分にあたる100円は控除できないため、商品代として計上します。
商品 5,100円 / 現金 5,500円
仮払消費税 400円
なお、経過措置を受けるためには、経過措置を受けることを記載した帳簿と必要事項が記載された請求書の保存が要件となります。
2019年10月1日に消費税が8%から10%に引き上げられた際、低所得者への配慮の観点から「酒類・外食を除く飲食料品」と「定額購読が契約された週2回以上発行される新聞」は税率を8%とする軽減税率制度が実施されました。
この軽減税率の導入により消費税率10%と8%の複数税率が存在することになったため、区分経理に対応した帳簿及び区分記載請求書等を保存する方式として、2019年10月1日から導入されたのが区分記載請求書等保存方式です。
従来の請求書の記載項目は下記の5つでした。
・請求先の氏名または法人名等
・作成者の氏名または法人名等
・取引年月日
・取引内容
・取引金額
区分記載請求書では上記5つに加え、
・軽減税率の対象品目である旨
・税率ごとに合計した税込対価の額
の2つが追加されました。
なお、区分記載請求書の発行は義務でなく任意で、売り手・買い手の両者の合意があれば区分記載請求書ではなく従来の請求書を発行することができます。
区分請求書等保存方式はインボイス制度導入までの経過措置で、適用されるのは2023年9月30日まです。
2023年10月1日からはインボイス制度(適格請求書等保存方式)に変更となります。
登録制度の有無や免税事業者との取引における仕入額控除対象の可否など、いくつかの違いがあります。
(図参照)
また、2023年9月末までは取引先が発行した請求書によって仕入税額控除の適用を受けられますが、インボイス制度が始まる2023年10月からは仕入税額控除の適用を受けるためには取引先(売り手)である登録事業者から発行を受けた適格請求書(インボイス)の保存等が必要となります。
適格請求書発行事業者に登録するかどうかについては事業内容や取引先等の様々な状況を踏まえた上で判断する必要があります。
ここでは取引先について考えていきます。
自社が免税事業者で販売先が課税事業者の場合、販売先は仕入税額控除を行うことができないため税負担が増加します。
そのため、販売先から取引を見直される可能性があります。
強引な取引内容の変更等は独占禁止法や下請法等で問題になる恐れがありますが、これらの法律に抵触しない範囲での一定の要請があることは予想されます。
東京商工リサーチが2022年12月に実施したアンケート調査では、インボイス制度に登録しない免税事業者との取引について、「取引しない」と回答した企業が1割強(10.2%)に達しています(2022年8月の前回調査時の9.8%から0.4ポイント上昇)。
アンケート実施時期が半年以上前なので現時点での情勢とは乖離があるかもしれませんが、取引先の意向等を把握しておく必要があると思われます。
また、免税事業者との取引を継続すると表明している場合であっても、「経過措置」の期間が終了すれば取引の見直しが行われる可能性がありますので注意が必要です。
今回は2023年10月からスタートするインボイス制度がどのように太陽光発電投資へ影響するかを解説致しました。
制度スタートによって最も影響が大きいと思われる取引は免税事業者が太陽光発電所を売却する場合です。この場合、買い手は仕入税額控除を行うことができません。そうなると、買い手からは消費税分を値引きしてほしいという価格交渉が入る可能性、さらに買い手が敬遠し売れなくなるということも考えられます。
そのため、現在太陽光発電所の売却を考えている免税事業者はインボイス制度が始まる前の2023年9月末までに太陽光発電所を売却してしまうことで消費税の問題をクリアできると思われます。
弊社クラベールは中古太陽光発電所の買取や売却の仲介サービスを提供しています。買取ご希望の場合は査定後短期間で現金化可能です。また、仲介をご希望の場合は発電所の査定後、買主様との交渉から契約手続きまで専任担当者がサポートさせていただきます。
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この記事を書いた人:澤井 孝夫
株式会社バイタルフォース代表取締役
太陽光発電で売電事業を行っている個人投資家の多くが、消費税還付の仕組みを利用してキャッシュフローを増やしています。
この記事では太陽光発電投資で消費税還付を受けることができるという話は聞いたことがあるものの、詳しい内容は知らないという方のために消費税還付の仕組みをご説明させていただきます。
もちろん、消費税還付について全く知らないという方にもわかる内容になっています。
(本記事では税率を一律10%としています)
目次
高額な仕入を行ったときなど、支払った消費税の方が預かった消費税より多くなる場合があります。このような場合、事業者は消費税を多く納付し過ぎている状態です。
このように、預かった消費税よりも支払った消費税が多い場合、多く納付し過ぎている(差し引けなかった)分が還付されます。
これが消費税還付の仕組みです。
例)機械設備や車両の購入など、大規模な設備投資をした場合は支払った消費税の方が多くなって消費税の還付を受けられる可能性があります。
消費税とは
消費税は物やサービスを購入する際に支払う税金です。
全ての取引に消費税が課税されるわけではないことには注意が必要です。
日本国内の事業活動(商品の販売や運送、広告など)対価を得て行う取引のほとんどは課税の対象となります。
事業者が国内で商品などを販売する場合には、原則として消費税がかかります。(外国から商品を輸入する場合も輸入の際に課税されます。しかし、販売が輸出取引に当たる場合には消費税が免除されます。これは、内国消費税である消費税は外国で消費されるものには課税しないという考えに基づくものです。)
輸出取引以外にも土地の譲渡、貸付け(一時的なものを除く。)や有価証券、支払手段の譲渡などは非課税となっています。
詳しくは以下のサイトをご覧ください。
税の負担者と納税者
消費税は、商品販売やサービス提供などの取引に対して課税される税で、消費者が負担し事業者が納付します。
事業者は、商品の販売やサービスを提供したときに消費者から消費税を預かります。
一方、消費税を受け取った事業者も、仕入等で商品や原材料を購入する際には消費税を支払っています。
消費者から預かった消費税から、仕入等の事業活動の中で支払った消費税を差し引き、納付する消費税を算出します。
例)
消費者:本体価格100円の商品を税込110円(本体100円、消費税10円)で購入
事業者:本体価格60円の商品を税込66円(本体60円、消費税6円)で仕入れて、税込110円(本体100円、消費税10円)で販売した場合、消費者から預かった消費税10円から仕入で支払った消費税6円を差し引いて、4円を納付
ここからは太陽光発電投資における消費税還付について説明していきます。
消費税還付を受けるためには課税事業者であることが条件です。
免税事業者に該当している場合は、課税事業者を選択して消費税の還付を受けられるようにしておく必要があります。
免税事業者が課税事業者になるためには「消費税課税事業者選択届出書」を提出します。
この届出書には提出期限があり、適用を受けようとする課税期間の初日の前日まで(適用を受けようとする課税期間が事業を開始した日の属する課税期間である場合には、その課税期間中)となっています。
すでに何らかの事業を行っていて免税事業者となっている個人事業主の場合、前年に提出しておくことになります。
例えば現在は令和5年なので令和4年中に提出しておく必要があります。もし令和4年中に提出していなかった場合は令和5年中に提出し、翌年の令和6年に課税事業者となった上で太陽光発電設備を取得することになります。
一方、これから新規開業する場合は、上記例で言えば提出期限が令和5年中になる(適用を受けようとする課税期間が事業を開始した日の属する課税期間である場合には、その課税期間中)ため、令和5年中に「消費税課税事業者選択届出書」を提出すれば問題ありません。
前年中に「消費税課税事業者選択届出書」を提出していなかった免税事業者が、今年太陽光発電設備を取得して消費税還付を受けるために課税事業者になりたい場合は、新規に法人を設立することなどで対応できます。
課税事業者となって消費税還付を受けた後のことについて説明していきます。
課税事業者のままでは消費税の納付義務がありますので、免税事業者に戻りたい場合はどうしたらよいのでしょうか?
基準期間、特定期間の課税売上高が1,000万円以下であれば免税事業者の要件に当てはまるため所定の手続きを行うことで免税事業者に戻れます。
課税事業者を選択していた事業者が選択をやめよう(免税事業者に戻ろう)とする場合、消費税課税事業者選択不適用届出の手続が必要です。
消費税課税事業者選択不適用届出書には提出期限があり、免税事業者に戻ろうとする課税期間の初日の前日までとなっています。
ただし、すぐに免税事業者に戻れる(消費税課税事業者選択不適用届出書を提出できる)わけではありません。
消費税課税事業者選択届出書を提出して課税事業者となった課税期間の初日から2年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ、この届出書を提出することはできません。
また、調整対象固定資産を購入した場合にもこの届出書を提出できない場合があります。
太陽光発電設備は調整対象固定資産に該当します。
調整対象固定資産を取得した期間を含む3年間は簡易課税の選択や免税事業者になることができません。
したがって、太陽光発電設備を取得する時期によっては2年で戻れないことになります。
課税事業者になった1年目に太陽光発電設備を取得し、その後別の太陽光発電設備を購入しなければ、3年目までは課税事業者ですが4年目から免税事業者になることができます。
1年目に太陽光発電設備を取得せずに2年目に取得(あるいは1年目に発電所を取得後、2年目にも別の発電所を取得)した場合は、3年目・4年目も課税事業者のままで、免税事業者に戻れるのは5年目からになります。
太陽光発電投資で消費税還付を受ける際の計算は以下のようなイメージになります。
還付シミュレーション
課税事業者が令和5年の課税期間中(令和5年1月1日〜令和5年12月31日)に太陽光発電所を取得した場合
太陽光発電設備購入:1,650万円(本体1,500万円、消費税150万円)
メンテナンス費用:11万円(本体10万円、消費税1万円)
売電収入:176万円(本体160万円、消費税16万円)
預かった消費税から支払った消費税を差し引くと16万円 − 151万円(150万円+1万円) = △135万円となります。
この場合では135万円の消費税還付を受けることになります。
参考:課税事業者となった1年目に太陽光発電所を取得し、4年目に免税事業者に戻った場合の消費税について
課税売上 消費税
(預かった分)課税仕入 消費税
(支払った分)納付した消費税 備考 1年目
(課税事業者)売電収入176万円 16万円 太陽光発電設備1,650万円 150万円 △135万円 135万円の還付 メンテナンス11万円 1万円 2年目
(課税事業者)売電収入176万円 16万円 メンテナンス11万円 1万円 15万円 3年目
(課税事業者)売電収入176万円 16万円 メンテナンス11万円 1万円 15万円 4年目
(免税事業者)売電収入176万円 16万円 メンテナンス11万円 1万円 0円 15万円が手元に残る
以上のように消費税還付を利用して現金を手元に戻すことでキャッシュフローが大きく改善します。
消費税還付を受けるにはクリアしないといけない条件があるほか、諸手続きを適切な時期に行う必要があります。
最後に太陽光発電投資における消費税還付の流れを改めて説明します。
①「消費税課税事業者選択届出書」を提出(課税事業者になる)
↓
②翌年、消費税の還付申告を行う
↓
③ その後2年間(場合によっては3年間)、消費税の申告を行う
↓
④「消費税課税事業者選択不適用届出書」を提出(免税事業者になる)
消費税の還付を受けるためには、預かっている消費税より納付額が多いことに加え、次の条件を満たす必要があります。
・課税事業者であること
・原則課税を適用していること
以下、それぞれについて説明していきます。
課税事業者とは、消費税の申告・納付義務のある事業者のことです。
法人や個人事業主が課税事業者になるのは、基準期間の課税売上高等から課税事業者と判定される場合と自ら「消費税課税事業者選択届出書」を提出して課税事業者になる場合があります。
基準期間の課税売上高等から課税事業者と判定される場合
以下に挙げる「基準期間」または「特定期間」の課税売上高が1,000万円を超えた事業者は、課税事業者となります。(法人・個人事業主共に)
特定期間における1,000万円の判定は、課税売上高に代えて、給与等支払額の合計額により判定することもできます。
なお、課税売上高とは消費税の課税対象になる日本国内、または輸入などに伴う売上のことで、事業活動のほとんどが該当します。
基準期間と特定期間
法人 | |
---|---|
基準期間 | 前々年の事業年度 |
特定期間 | 前年の事業年度開始の日以後6か月間 |
個人事業主 | |
基準期間 | 前々年の1月1日から12月31日まで |
特定期間 | 前年の1月1日から6月30日まで |
上記の課税事業者の条件に該当しない場合、免税事業者となります。
免税事業者に該当する場合であっても、消費税課税事業者選択届出手続を行えば、課税事業者になることができます。
預かる消費税よりも支払う消費税の方が多い場合や、インボイス制度に対応したいなどの理由によって課税事業者になることを望むこともあります。
ただし、課税事業者には消費税の納付が必要な他、経理処理が複雑といったデメリットもあるため、慎重な判断が必要です。
さらに、消費税課税事業者選択届出書を提出して課税事業者を選択した場合、その後2年間は免税事業者に戻ることができない点には注意が必要です。
(免税事業者については後ほどあらためて説明します。)
消費税の計算方法には、「原則課税方式」と「簡易課税方式」の2種類があります。
原則課税の計算方法
預かった消費税(売上にかかる消費税)と支払った消費税(仕入や経費にかかる消費税)の差額を納付することが原則になります。
原則課税は、文字通り原則的な計算方法になるので、簡易課税を選択する届出をしない限りは自動的に原則課税が適用されることになります。
簡易課税の計算方法
簡易課税方式は、課税売上高にかかる消費税を基礎として業種ごとに定められた「みなし仕入率」を掛け、その金額を仕入等にかかった消費税として計算する方法です。簡易課税は基準期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者しか選択できません。
簡易課税を選択したい場合には、事前に届出書を提出する必要があります。
みなし仕入率は業種により異なっています。
業種区分 | みなし仕入率 | 該当する事業 |
---|---|---|
第一種事業 | 90% | 卸売業 |
第二種事業 | 80% | 小売業 |
第三種事業 | 70% | 建設業、製造業ほか |
第四種事業 | 60% | 飲食業、手間請負 |
第五種事業 | 50% | サービス業ほか |
第六種事業 | 40% | 不動産業 |
簡易課税を適用する場合、消費税の納税額の計算は下記のようになります。
消費税の納税額=売上にかかる消費税-売上にかかる消費税×みなし仕入率
このように、仕入・経費にかかる実際の消費税は一切考慮せず、売上のみで消費税の計算を行います。
そのため、原則課税よりも簡単に消費税の納税額を計算できるのが特徴です。
消費税の還付を受けられるのは、ご紹介した2つの計算方法のうち、原則課税を適用している事業者だけです。簡易課税方式ではみなし仕入率が決まっているため、売上の消費税額より仕入れの消費税額が多くなることはないからです。
以上のように、消費税還付を受けることができるのは、課税事業者または課税事業者となることを選択した事業者に限られます。
免税事業者は消費税の還付を受けることはできません。
免税事業者に該当するかどうかの判定には上述の通り「基準期間の課税売上高」もしくは「特定期間の課税売上高・給与支払額」を用います。
したがって、新規開業して1年目の事業者は基準期間・特定期間が存在せず、基本的には免税事業者となります。
ただし、基準期間のない事業年度であっても、その事業年度の開始の日における資本金の額または出資の金額が1,000万円以上である法人や特定新規設立法人に該当する法人の場合は、納税義務は免除されませんので注意が必要です。
免税事業者は、仕入等にかかった消費税の控除ができないので、課税売上にかかる消費税よりも課税仕入等にかかる消費税が多い場合でも、還付を受けることができません。
輸出業者のように経常的に消費税額が還付になる事業者等は、課税事業者となることを選択することによって還付を受けることができます。
課税事業者となるためには、納税地の所轄税務署長に「消費税課税事業者選択届出書」を提出することが必要です。
この届出書は原則として、適用しようとする課税期間の初日の前日までに提出することが必要です。
この届出書を提出した事業者は、事業を廃止した場合を除き、原則として、課税事業者となった日から2年間は免税事業者となることはできません。
なお、免税事業者に戻ろうとする場合には、免税事業者に戻ろうとする課税期間の初日の前日までに「消費税課税事業者選択不適用届出書」を提出する必要があります。
ただし、消費税課税事業者選択届出書を提出した事業者が、課税事業者となった課税期間の初日から2年を経過する日までの間に開始した各課税期間中に、国内において調整対象固定資産の課税仕入れや調整対象固定資産に該当する課税貨物の保税地域からの引取り(以下「調整対象固定資産の仕入れ等」といいます。)を行い、かつ、その仕入れた日の属する課税期間の確定申告を一般課税で行う場合には、原則として、その調整対象固定資産の仕入れ等を行った課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ「消費税課税事業者選択不適用届出書」を提出することはできず、免税事業者となることはできません。また、「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出し、簡易課税制度を選択することもできません。
免税事業者に関するよくある質問に、「免税事業者が消費税を請求してもよいのか?」があります。
免税事業者であっても取引先に対して消費税を請求することは可能です。
課税事業者の場合、「売上取引で預かった消費税額」から「仕入取引で支払った消費税」を差し引いた金額を納税します。
一方、免税事業者の場合、消費税の納税義務がないため、「売上取引で預かった消費税」がそのまま利益となりまる。
この利益は「益税」と呼ばれています。
益税はインボイス制度と絡めて話題に上がることがあります。
太陽光発電投資とインボイス制度については次のコラム記事で説明します。
課税事業者:消費税を納入する必要がありますが、還付を受けることができます。
免税事業者:消費税の納税義務がない代わり、還付を受けることができません。
消費税還付を受ける場合は、課税事業者になる必要があります。
免税事業者は還付を受けることができません。
課税事業者は納税負担が大きいため、免税事業者のほうが節税になります。
納税額だけを考慮すると免税事業者のほうがメリットがありそうですが、免税事業者は消費税還付を受けられないというデメリットがあります。
加えて、今後のインボイス制度の導入により、適格請求書(インボイス)が発行できないことで取引先が減ったり、取引先から値引き要請を受ける可能性があります。
課税事業者・免税事業者のどちらを選択するかについては事業内容や経営方針等をもとにして総合的かつ慎重に判断する必要があるでしょう。
今回は太陽光発電投資における消費税還付について解説致しました。まとめますと、発電所購入時に支払った消費税は売電収入で預かった消費税より多くなり、この多く支払った消費税分は消費税還付により戻ってくるため、キャッシュフローが改善するというものです。注意点としては課税事業者になる必要があり、還付後は必要であれば免税事業者に戻る手続きが必要です。
弊社クラベールは中古太陽光発電所の買取や売却の仲介サービスを提供しています。
太陽光発電所にご興味ございましたら、0120-156-226または専用メールフォームよりお問い合わせください。また、ご希望の条件の掲載物件がなくとも、購入希望者登録をいただけましたら、専任の担当がお客様に変わりまして最適な物件をお探し致します。詳しくはフリーダイヤル0120-156-226または専用メールフォームよりお気軽にお問い合わせくださいませ!
この記事を書いた人:澤井 孝夫
株式会社バイタルフォース代表取締役
こんにちは。太陽光発電所の仲介・買取クラベールの編集部です。今回は太陽光発電所を売却した際にかかる税金の基本的な情報をお話しします。なお、この記事では個人の方を対象としています。
注意)本記事は一般的な情報を提供するものであり、具体的な税務相談を提供するものではありません。
具体的な税務問題については専門家(税理士など)に相談してください。
目次
太陽光発電所を売却した際に発生する税金は次の3つです。
・所得税
・住民税
・消費税
この項ではまず所得税と住民税について個人の方を対象に説明します。
太陽光発電所は動産である発電設備と不動産である土地、それぞれ分けて考えます。
それでは、それぞれの課税対象額の考え方からご紹介します。(この課税対象額に所得税の税率、住民税の税率を掛けた金額が最終的な税額となります。)
課税対象額
1)所有5年以下での売却:売却益の全額が課税対象
2)所有5年超での売却:売却益の1/2が課税対象
売却益 = 売却価額 ―(帳簿価額※1+手数料※2)― 特別控除50万円
※1購入金額から減価償却費を差し引いた金額
課税対象額 = 売却価額 ―(購入金額+手数料※2)
※2売却した際に発生する手数料(仲介手数料など)です。
ご覧いただくとお分かりの通り、太陽光発電所を売却する際、所有期間が5年以下だと売却益の全額が課税対象となり、5年超えだと半分(1/2)で済みます。また以降で解説いたしますが、土地も5年超えの所有だと税率が低く設定されています。つまり、売却を検討される際は5年超えか否かで税額が大きく変わるため、ここはしっかりと確認いただいた方が良いでしょう。
所有期間の判定
発電設備
発電設備は売却した時点で5年超であれば売却益の半分が課税対象となり、5年以下だと売却益の全額が課税対象となります。
詳しくは次のページを参照ください。
譲渡所得の計算のしかた(総合課税) | 国税庁
土地
売却した年の1月1日時点で所有期間が5年超であれば所得税15%、住民税5%となり、所有期間が5年以下だと所得税30%、住民税9%となります。
前項で発電設備と土地、それぞれで課税対象額を考えました。ここではこの課税対象額にそれぞれの税率を掛けて税額を算出する考え方をご紹介します。
発電設備
まず所得税から計算してみましょう。発電設備は「機械装置」の譲渡所得となり、課税対象の金額と給与所得や不動産所得などと合算(損益通算)します。これを総合課税と言います。
所得税は超過累進税率で所得が多くなるに従って段階的に高くなり、5~45%までの7段階の税率を掛けて算出します。
詳しくは次のページを参照ください。
所得税の税率 | 国税庁
また、住民税は合算(損益通算)した金額に10%(一律)を掛けて計算します。
土地
土地は分離課税による譲渡所得となりますので、給与所得や不動産所得などと合算(損益通算)はできません。売却した年の1月1日現在の所有期間が5年を超える土地を売ったときの所得税は15%、住民税は5%となります。5年を超える土地の売却益のことを長期譲渡所得と言い、5年以下は短期譲渡所得と言います。短期譲渡所得の所得税は30%、住民税は9%です。
詳しくは次のページを参照ください。
続いて消費税です。課税事業者(消費税を納税する義務がある者)の場合、売却額の10%を消費税として買手から預かり、そこから仕入れにかかった消費税を差し引いたものを納税します。発電所の購入時に消費税還付スキームを利用し、あえて課税事業者となった事業者の方は3年間免税事業者に戻れませんので、売却のタイミングが重要です。すでに免税事業者の方は消費税の納税義務はありませんので対応不要です。
なお、2023年10月から始まるインボイス制度において、一部ネット上で「インボイス制度に登録しない免税事業者は消費税10%分が減額された電力買取価格に変更される」との誤った情報が散見されます。資源エネルギー庁では免税事業者は、インボイス制度に関する対応は不要であり、インボイスの登録がなくとも、現行の電力買取価格が変更されることはないことを明言しています。
発電事業においてインボイス制度に対応し課税事業者になるメリットはありませんので、計画的に課税事業者と免税事業者を切り替えながら出口を考える必要があるでしょう。
追記
課税事業者と免税事業者を切り替えながら手残りを最大化させるスキームは事実上2023年9月末までとなります。それ以降インボイス制度開始後は次の発電所オーナーが免税事業者との取引によって消費税還付を受けられないからです。
売却をご検討ならお急ぎいただいた方が良いでしょう。
ここでは課税対象額のシミュレーションをもとに節税のポイントを考えてみましょう。
注意)一般的な情報をもとにシミュレーションを行なっております。個別具体的な税務問題については専門家(税理士など)に相談してください。
シミュレーションの前提:
・取得価額 :2,000万円 (土地代200万円含む)
・定率法による減価償却
・所有期間:6年
・売却価額:1700万円(土地代200万円含む)
※売買手数料はこのシミュレーションでは無視します。
シミュレーションでは6年間発電所を所有していますので、発電設備の課税対象額が半分になっています。
もし5年以下で売却してしまうと、600万円を超える額が課税対象となってしまいますので、これは大きな違いです。
課税対象額 | 発電設備 | 3,013,042円 |
---|---|---|
土地 | 0円 |
また、ここでは減価償却の方法として定率法を採用していますが、定額法を採用した場合、帳簿価額は定率法より大きくなりますのでその分、課税対象額を圧縮することができます。具体的には143万円程度まで課税対象額を圧縮することができました。
減価償却について詳しくは以下の記事を参照ください。
発電設備の売却は土地と違い、総合課税ですので他の事業での赤字にぶつけることができます。このあたりは計画的な節税ができそうです。一方でサラリーマンの方は給与所得との合算になりますので、思わぬ高額となるなど注意が必要でしょう。
続いて土地の売却益は分離課税(給与所得や事業所得などと合算できない)ですので購入時と同額をぶつけて相殺します。(マイナスにしても分離課税のため、赤字をぶつけることができません。もちろんプラスにすると税金が発生します。よって0円になるように調整します。)このシミュレーションでは売買手数料を無視していますが、仮に50万円の手数料がかかった場合、土地代を手数料分高く設定し、(200 + 50万円)高くした分を発電設備から差し引く(1500 – 50万円)ことで全体の帳尻を合わせつつ、発電設備の課税対象額を圧縮するという方法もあります。
土地の課税対象額
0円 = 250万円 ― (200万円 + 50万円)
課税対象 = 売却価額 ―(購入金額+手数料)
今回は個人の方が発電所を売却した際に発生する税金を解説しました。ポイントとしては長期譲渡所得扱いとするため、発電所は5年を超えてから売却すること。また消費税の課税事業者と免税事業者を切り替えながら手残りを最大化させるスキームは事実上2023年9月末までとなるので売却を検討されている方はスピード感を持って対応されることをおすすめいたします。
弊社クラベールは中古太陽光発電所の買取や売却の仲介サービスを提供しています。買取ご希望の場合は査定後短期間で現金化可能です。また、仲介をご希望の場合は発電所の査定後、買主様との交渉から契約手続きまで専任担当者がサポートさせていただきます。売却ご検討の場合はお気軽にフリーダイヤル0120-156-226または専用WEBフォームよりお問い合わせくださいませ!
こんにちは。太陽光発電所の仲介・買取クラベールの編集部です。
今回はご質問いただくことの多い「太陽光発電所の減価償却」について計算方法から記帳方法(仕訳)まで詳しく解説致します。
目次
太陽光発電設備を取得した際、その法定耐用年数に応じてその価値を減少させる手続き「減価償却」をします。ここで注意点としては、土地は減価償却の対象外となるということです。
当社でご紹介している発電所の多くは土地代込の価格表示となっていますので、減価償却費を計算される際は土地代を除いた発電設備のみを対象としてください。
減価償却費の計算の前にまず、発電設備の法定耐用年数を知る必要があります。
太陽光発電所の法定耐用年数は17年です。太陽光発電所は耐用年数省令別表第2「31 電気業用設備」の「その他の設備」の「主として金属製のもの」に該当します。
それではこの法定耐用年数を使って次のケースで減価償却費を計算してみましょう。
・取得価額 :2,000万円 (土地代200万円含む)
・法定耐用年数:17年
※取得価額の消費税は税込経理を採用していれば消費税を含んだ金額が取得価額となり、
税抜経理を採用していれば消費税を含まない金額が取得価額となります。
減価償却費の計算方法は定額法と定率法の主に2つあります。
定額法とは、減価償却費が毎年同じ額になる計算方法のことです。設備の取得価額を法定耐用年数で割る、もしくは設備の取得価額に定額法償却率をかけることで表されます。
太陽光発電所の法定耐用年数17年の定額法償却率は0.059です。
土地代は減価償却の対象外となりますので、土地代を除いた発電設備1,800万円に定額法償却率0.059をかけます。
定額法による減価償却費
1800万円 × 0.059 = 106万2千円
年数 | 期首帳簿価額 | 償却限度額 | 期末帳簿価額 |
---|---|---|---|
1年 | 18,000,000 | 1,062,000 | 16,938,000 |
2年 | 16,938,000 | 1,062,000 | 15,876,000 |
3年 | 15,876,000 | 1,062,000 | 14,814,000 |
4年 | 14,814,000 | 1,062,000 | 13,752,000 |
5年 | 13,752,000 | 1,062,000 | 12,690,000 |
6年 | 12,690,000 | 1,062,000 | 11,628,000 |
7年 | 11,628,000 | 1,062,000 | 10,566,000 |
8年 | 10,566,000 | 1,062,000 | 9,504,000 |
9年 | 9,504,000 | 1,062,000 | 8,442,000 |
10年 | 8,442,000 | 1,062,000 | 7,380,000 |
11年 | 7,380,000 | 1,062,000 | 6,318,000 |
12年 | 6,318,000 | 1,062,000 | 5,256,000 |
13年 | 5,256,000 | 1,062,000 | 4,194,000 |
14年 | 4,194,000 | 1,062,000 | 3,132,000 |
15年 | 3,132,000 | 1,062,000 | 2,070,000 |
16年 | 2,070,000 | 1,062,000 | 1,008,000 |
17年 | 1,008,000 | 1,007,999 | 1 |
求めた減価償却費106万2千円は償却限度額となり、年間に計上できる上限値です。
設備を年の途中で取得した場合は、減価償却費を月割りにし、取得経過した月数分が償却限度額となります。最終年度には残存価額1円を残し全額償却できました。
こちらのサイトは減価償却費の計算にとても便利です。
減価償却(H24年度~)|高精度計算サイト
参考:減価償却資産の償却率等表|国税庁
定率法は取得価額から減価償却費を差し引いたものを期首の未償却残高として、これに定率法償却率をかけて計算します。
太陽光発電所の法定耐用年数17年の定率法償却率は0.118です。
定率法による減価償却費
1年目:1800万円 × 0.118 = 212万4千円
2年目:(1800万円 – 212万4千円) × 0.118 = 187万3,368円
年数 | 期首帳簿価額 | 償却限度額 | 期末帳簿価額 |
---|---|---|---|
1年 | 18,000,000 | 2,124,000 | 15,876,000 |
2年 | 15,876,000 | 1,873,368 | 14,002,632 |
3年 | 14,002,632 | 1,652,310 | 12,350,322 |
4年 | 12,350,322 | 1,457,337 | 10,892,985 |
5年 | 10,892,985 | 1,285,372 | 9,607,613 |
6年 | 9,607,613 | 1,133,698 | 8,473,915 |
7年 | 8,473,915 | 999,921 | 7,473,994 |
8年 | 7,473,994 | 881,931 | 6,592,063 |
9年 | 6,592,063 | 777,863 | 5,814,200 |
10年 | 5,814,200 | 726,775 | 5,087,425 |
11年 | 5,087,425 | 726,775 | 4,360,650 |
12年 | 4,360,650 | 726,775 | 3,633,875 |
13年 | 3,633,875 | 726,775 | 2,907,100 |
14年 | 2,907,100 | 726,775 | 2,180,325 |
15年 | 2,180,325 | 726,775 | 1,453,550 |
16年 | 1,453,550 | 726,775 | 726,775 |
17年 | 726,775 | 726,774 | 1 |
定額法と定率法を比較すると、定率法の方が取得した年度に減価償却費を多く計上し、年々計上額が少なくなっていることに気が付きます。これは未償却残高に決まった率をかけるため、取得した年度に近いほど未償却残高(期首帳簿価額)が大きいからです。
定率法によって費用を多く計上できれば税金も少なくて済みますが、それ以上に手元現金を確保することができるため定率法を採用する方が合理的と考えることもできます。
自家消費の場合の法定耐用年数
FITを目的とした太陽光発電所の法定耐用年数は17年ですが、自家消費の場合は9年※になります。この見解に関しては国税庁のHPで確認することができ、例として自動車製造業を営む法人が、自社の工場構内に自動車製造設備を稼働するために太陽光発電を設置した場合、減価償却資産の耐用年数等に関する省令別表第2「23 輸送用機械器具製造業用設備」の9年が適用されるとしています。
※業種により違いがある場合があります。
詳しくはこちら
風力・太陽光発電システムの耐用年数について | 国税庁
SDGsへの取り組みなどから事業で使う電力を自社で賄う、自家消費が注目されています。この取り組みは企業のイメージアップはもちろん、キャッシュアウトを伴わない減価償却費がFITの17年と比べ大きい為、手元現金を厚くしておけるというメリットも見逃せません。
減価償却費の計算ができましたら次は、仕訳方法について解説致します。
減価償却費の仕訳方法も2つあり、直接法と間接法になります。違いとしては減価償却累計額の勘定科目を使うか否かです。では、それぞれ見てみましょう。
直接法は減価償却費を直接、発電設備(機械装置)の未償却残高から差し引き、価値が減少するような仕訳を行うため、減価償却累計額勘定を使用しません。
定率法 / 直接法での仕訳
(借) 減価償却費 2,124,000円 | (貸) 機械装置 2,124,000円 |
間接法では減価償却費を減価償却累計額勘定に集計します。
この減価償却累計額勘定は発電所購入時からの減価償却費の合計額を表し、資産勘定のマイナスを表す特殊な勘定科目です。
定率法 / 間接法での仕訳
(借) 減価償却費 2,124,000円 | (貸) 減価償却累計額 2,124,000円 |
直接法を採用した場合、貸借対照表上では発電設備の取得価額は表示されず、減価償却の累計額を差し引いたその時点での発電所の価額のみが記載されます。
一方、間接法では、減価償却費を減価償却累計額に計上するため、発電所の取得価額と減価償却の累計額をどちらも同時に把握することができるため、発電所の正しい価値を把握しやすくなります。
さて、中古の太陽光発電所を購入した場合、減価償却に使う法定耐用年数はどうなるのでしょうか。すでにご説明した通り、太陽光発電所の法定耐用年数は17年です。仮に5年経過した中古の発電所を購入した場合、簡便法によると次のように計算します。
簡便法による耐用年数の算出
(法定耐用年数-経過した年数)+経過した年数×20%(1年未満切捨て)
(17年 – 5年)+ 5年 × 0.2 = 13年
5年経過した発電所の耐用年数は13年となります。
計算によって1年未満の端数があるときは、その端数を切り捨てます。
詳しくはこちら
国税庁 中古資産の耐用年数
発電所の売却を行った際はその時点で減価償却費を計上します。例えば1,800万円の太陽光発電設備を取得して5年目に1,200万円で売却した場合、次のように仕訳を行います。
(借) 減価償却費 1,285,372円 減価償却累計額 7,107,015円 現金 12,000,000円 |
(貸) 機械装置 18,000,000円 固定資産売却益 2,392,387円 |
今回はキャッシュフローに関係する「減価償却費」についてその計算方法や仕訳方法をご説明致しました。すでにご説明した通り、減価償却の計算には定率法を用いた方が経費算入を大きくすることができます。個人のお客様が定率法を選ぶ場合は税務署に届け出が必要になりますので、その点注意が必要でしょう。
弊社クラベールは中古太陽光発電所の買取や売却の仲介サービスを提供しています。
太陽光発電所にご興味ございましたら、0120-156-226または専用メールフォームよりお問い合わせください。また、ご希望の条件の掲載物件がなくとも、購入希望者登録をいただけましたら、専任の担当がお客様に変わりまして最適な物件をお探し致します。詳しくはフリーダイヤル0120-156-226または専用メールフォームよりお気軽にお問い合わせくださいませ!
こんにちは。太陽光発電所の仲介・買取クラベールの編集部です。
今回はタイトルにある通り、2023年度の売却市場環境のご説明と発電所を高く売却するためのポイントについて解説したいと思います。
目次
2012年にスタートしたFIT制度により全国で65万基を超える発電所が建設されました。
この内、50kW未満の低圧発電所は全体の95%、62万基に及び、売電開始から数年経過した発電所がセカンダリー市場で活発に取引されています。
2023年度の売却市場において話題になっているのが今年(2023年)10月から始まるインボイス制度です。
このインボイス制度のスタートが売却理由となり、発電所を手放す事業者様が増えるというのです。本当でしょうか。まずはこのあたりから解説を始めてみたいと思います。
ご存知の方も多いと思いますが、インボイス発行事業者となることが取引相手となる買手(課税事業者)の仕入税額控除の要件となります。FIT制度との関係ではインボイス制度開始後は、FIT認定事業者がインボイス発行事業者の登録を受けない場合には、買取義務者(電力会社)は、FIT認定事業者が発電した電気の買い取りにあたって、インボイスの交付を受けることができないため、買取価格に係る取引分の仕入税額控除ができなくなります。(電力会社の消費税納税額が増える)よって現在、売電収入が1,000万円以下の免税事業者は消費税10%分が減額された買取価格に変更されるため、インボイス制度スタートが売却理由となるというのです。
ネット上で散見される上記の説明の「免税事業者は消費税10%分が減額された買取価格に変更される」は完全に誤りです。
消費税を申告・納付していない方(免税事業者)はインボイスの登録がなくとも、現行の買取価格が変更されることはありません。
「免税事業者である自分もインボイス登録しないといけないのか?」とお問合せいただくことがありますが、資源エネルギー庁では免税事業者は、インボイス制度に関する対応は不要であり、インボイスの登録がなくとも、現行の買取価格が変更されることはないことを明言しています。一方で1,000万円を超える売上高の事業者(課税事業者)や消費税還付スキームを利用してあえて課税事業者となっている方などはインボイス発行事業者としての登録が求められています。
詳しくは以下の資源エネルギー庁のホームページを参照ください。
インボイス制度のスタートが大きな売却の理由とはならないことを前項でご説明致しました。しかしながらセカンダリー市場での取引は活発です。
買い手側からすると、中古発電所の安定した利回りは魅力的ですし、FIPによる企業ニーズの増加も挙げられます。一方、発電所を手放す方の理由としては経年による設備のメンテナンスコストの増大が大きな理由です。発電機器は10年前後で何らかの不具合が生じることが多く、たとえばパネルの出力低下、パワーコンディショナの変換効率が低下や故障などがそれです。FIT制度の初期に作られた50kw未満の低圧発電所は全国に26万基程度あり、メンテナンスコストが増大する前に売却して出口を迎えたいと考える発電事業者様が増えていることが発電所の売却市場が活況な理由と言えます。
発電所の売却・査定のご依頼
当サイトは全量買取制度の草創期より産業用太陽光発電のコンサルティングを手がけ、ノウハウを蓄積してきた株式会社バイタルフォースが運営しております。分譲太陽光発電所の集客、販売を行ってきた経緯からこの分野にご興味をお持ちの投資家様と売主様をスピーディーにマッチング(仲介)することができます。売却・購入ともにセカンダリーマーケット(中古転売市場)をリードする当社がきっとお役に立てます。
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また、お電話での売却・査定のご依頼はフリーダイヤル0120-156-226までお気軽にお問い合わせください。
前項で発電開始から数年程度経過した発電所からセカンダリー市場に売りに出されているとご説明致しました。売却理由としてメンテナンスコストが増大すると利回りが悪くなるのでその前に出口を迎えようと考えられる事業者様が多いことを書きました。では中古の発電所を購入される方は想定の利回りが出ず損をするということでしょうか。これは結論から申し上げると損ということはありません。クラベールでは売却希望の発電所を査定させていただく際、発電設備の不具合等を確認させていただき、場合によっては修繕して仲介、または買取させていただいております。発電所の部材(パネル・パワーコンディショナ等)や建設コストはFIT制度初期と比べると大きく下がっています。さらに太陽光発電部材の商社でもある当社はこれらをエンド価格ではなく卸価格で仕入れることができる為、より低コストで修繕でき、利回りの悪化を防ぎながら安定した長期の発電を可能にした状態で仲介させていただいております。
ここでは当社が発電所を査定させていただく際、どのような点に注目し、プラス査定を行っているのかをご説明したいと思います。
発電所の売却価格は発電実績とFITの残存期間をもとに表面利回り10%を超えるように当社では設定させていただくことが多く、たとえば年間売電収入が200万円であれば2,000万円程度を軸にFITの残存期間と現金化の希望時期などをお伺いした上で調整させていただいております。
その上でさらに売却(査定)額を上げるポイントを3つご紹介致します。
遠隔監視システムが導入されているか、またメンテナンスサービスの契約が適正価格であるか確認しましょう。
遠隔監視システムは台風などでの急な発電停止や設備の不具合による発電量の低下などトラブルをいち早く察知し対処するのに必要で、設置を希望される買主様も多く、導入済み場合はプラス査定となります。また割高なメンテナンス契約が紐付きとなっていないかも確認しましょう。買主様の中にはご自身で草刈り等の行い、メンテナンス費用を抑えたいと考えられる方も多くいらっしゃいますので、割高な契約があれば解約できないか検討してみることも必要です。
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買手の心理として購入直後に発電設備の故障により修理費用や買替え発生するのは避けたいと考えていますので、メーカー保証が有効であるかは重要です。またパネルやパワーコンディショナのメーカーが存在するか、あるいは日本国内の保守体制が機能しているかも重要です。日本国内の代理店が事業撤退しているケースなどでは保証を受けるハードルが高くなることがありマイナス査定となります。
過去に自然災害が発生した地域であれば買主様から敬遠される可能性があります。また九州管内は出力抑制が実施されたことがありますので、抑制の可能性の低い東京電力・中部電力・関西電力エリアは出力抑制の可能性を考慮しなくてもよい為、買手側の価格交渉の材料にされにくく売却価格を維持することができるでしょう。
今回は太陽光発電所の売却市場環境について解説致しました。
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