公開日:2023年7月24日
インボイスとは請求書という意味です。インボイス制度においては、所定の要件を満たす請求書(適格請求書)を指します。売り手が発行した適格請求書を受け取った買い手が消費税の仕入額控除をすることができるという制度です。なお、「請求書」という名称になっていますが、請求書以外にも領収書や見積書、納品書等、載要件を満たしているものは適格請求書(インボイス)として取り扱うことができます。今回はこのインボイス制度がスタートすることによる太陽光発電投資への影響について解説してみたいと思います。
目次
適格請求書(インボイス)とは
まずは適格請求書(インボイス)とは何か、基本のキから解説します。
適格請求書(インボイス)とは、売り手が買い手に対して正確な適用税率や消費税額等を伝えるためのもので、現行の「区分記載請求書」に「登録番号」、「適用税率」及び「消費税額等」が追加された書類やデータのことです。
(注)「区分記載請求書」並びに「登録番号」については後ほど説明します。
適格請求書(インボイス)を発行できるのは「適格請求書発行事業者」に登録した課税事業者だけになります。
課税事業者であっても「適格請求書発行事業者」に登録していなければ適格請求書(インボイス)を発行することはできません。
また、免税事業者のままでは適格請求書の発行はできません。
現在免税事業者の方で、適格請求書を発行できるようにしたい場合は、課税事業者になった上で「適格請求書発行事業者」に登録する必要があります。
適格請求書(インボイス)の扱い方
売り手である登録事業者は、買い手である取引先(課税事業者)から求められたときは、適格請求書を発行しなければなりません(発行したインボイスの写しを保存しておく必要があります)。
買い手は仕入税額控除の適用を受けるために、原則として取引先(売り手)である登録事業者から発行を受けた適格請求書(インボイス)の保存等が必要となります。
では、インボイス制度による太陽光発電投資への影響について説明していきます。
太陽光発電投資への影響は次の2つがあります。
・売電収入への影響
・太陽光発電所売却への影響
現在は、売電事業者(売り手)が課税事業者・免税事業者のどちらであっても電気を買い取る電力会社による仕入税額控除が可能となっています。
2023年10月にインボイス制度が開始されると電力会社が仕入税額控除を行うためには売電事業者(売り手)が適格請求書発行事業者に登録する必要があります。
既にFIT認定を受けている発電事業者が課税事業者の場合、インボイス制度が開始される2023年10月までに適格請求書発行事業者となる必要があります。
また、2023年度以降に新たにFIT認定を受けようとする売電事業者で、課税事業者に該当する場合はインボイス発行事業者としての登録を行うことがFIT認定の要件となります。
一方、免税事業者の場合は適格請求書発行事業者の登録は不要です。適格請求書発行事業者としての登録がなくても現行の買取価格が変更されることはありません。また、2023年度以降に新たにFIT認定を受ける場合も、免税事業者はこれまでと同様に適格請求書発行事業者としての登録がなくてもFIT認定を受けることが可能となっています。
(注)売電事業者が免税事業者である場合、電力会社の納税負担が増えることになります。そのため、将来的には法改正等が行われ、消費税分の価格が差し引かれたり、適格請求書発行事業者としての登録が義務化される可能性があります。
仕入税額控除とは
消費税の納付は、課税期間中の課税売上に係る消費税からその課税期間中の課税仕入等に係る消費税(仕入控除税額)を控除して計算します。
課税仕入とは、事業のために他の者から資産の購入や借り受けを行うこと、または役務の提供を受けることをいいます。ただし、非課税となる取引や給与等の支払は含まれません。
課税仕入となる取引には商品・原材料等購入の他、広告宣伝費等の支払いがあります。詳しくは次のサイトを参照ください。
給与等の支払は課税仕入とはなりませんが、加工賃や人材派遣料のように事業者が行う労働やサービスの提供の対価には消費税が課税されます。したがって、加工賃や人材派遣料、警備や清掃などを外部に委託している場合の委託料などは課税仕入となります。
仕入額控除の計算例としては以下の通りとなります。
本体価格500円の商品を税込550円(本体500円、消費税50円)で仕入れて、税込880円(本体800円、消費税80円)で販売した場合、販売先から預かった消費税80円から仕入で支払った消費税50円を差し引いて、30円を納付することになります。
この場合、販売時に受け取った消費税80円から仕入時に支払った消費税50円を差し引く「80円 − 50円」が仕入額控除になります。
(注)仕入税額控除の計算方法には、「全額控除」・「個別対応方式」・「一括比例分配方式」・「簡易課税制度」の4種類があります。
これらは、売上の何割が課税対象になるかを示す課税売上割合や課税売上高により決まります。
実際の仕入税額控除額の計算を行う際には課税期間を通じて最も適した計算方法を選択します。
仕入税額控除を行うためには、必要事項が記載された帳簿及び適格請求書発行事業者が発行した適格請求書(インボイス)の保存が要件になります。
免税事業者等の適格請求書発行事業者ではない相手からの仕入については、原則として仕入税額控除の対象になりません。
現在は3万円未満の課税仕入については、請求書がなくても帳簿の記載だけで仕入税額控除を認める規定があります。
しかし、2023年10月のインボイス制度の導入後はこの規定が廃止され、原則として適格請求書(インボイス)が必要となります。
インボイス制度は2023年10月1日から開始され、適格請求書発行事業者のみが適格請求書を交付でき、消費税の仕入税額控除の適用を受けることができます。
現在(2023年9月まで)は免税事業者からの仕入であっても仕入税額控除が可能です。
しかし上述の通り、インボイス制度が導入される2023年10月からは免税事業者から仕入れた際は仕入税額控除ができなくなります(ただし、経過措置があります)。
インボイス制度が開始される2023年10月以降に課税事業者が免税事業者等の適格請求書発行事業者以外と取引を行う場合、免税事業者等が発行する請求書では仕入税額控除ができなくなります。
(注)インボイス制度実施後6年間(2029年10月まで)は免税事業者等からの仕入についても仕入税額相当額の一定割合を控除可能とする経過措置が設けられています。
インボイス制度開始後に太陽光発電所を売却する際の影響について考えていきます。
(ⅰ)買い手が課税事業者である場合には、売り手が買い手に対して適格請求書(インボイス)を交付すれば買い手は仕入税額控除の適用を受けることができます。
(ⅱ)買い手が免税事業者の場合、免税事業者は仕入税額控除を行わないので適格請求書(インボイス)を必要としません。
このように、適格請求書発行事業者が売り手となって太陽光発電所を売却する場合、買い手が課税事業者であっても免税事業者であっても売り手の側に特に影響は出ません。
(ⅰ)買い手が課税事業者である場合には、買い手が仕入税額控除の適用を受けるためには売り手が交付する適格請求書(インボイス)が必要になります。
しかしながら、売り手は適格請求書発行事業者でないためインボイスを交付できず、買い手は仕入税額控除を行うことができません。
(ⅱ)買い手が免税事業者の場合、免税事業者は仕入税額控除を行わないので適格請求書(インボイス)を必要としません。
免税事業者等が売り手となって太陽光発電所を売却する場合、買い手が課税事業者である場合には売り手の側に何らかの対応が必要になる可能性があります。
上記の②−(ⅰ)の場合、買い手は仕入税額控除を行うことができません。
仕入額控除ができないということは、買い手の納税額が増えるということになります。
そうなると、買い手からは消費税分を値引きしてほしいという価格交渉があると予想されます。
現在免税事業者で、インボイス制度導入後も免税事業者のままでいると消費税の納税義務がないというメリットがある一方、販売価格の引き下げや取引先の範囲が限定されるというデメリットもあります。
既述の通り当面は売電収入に影響はありませんが、今後の法改正等によって免税事業者は消費税分の収入が差し引かれたりする可能性があります。
今後、そのような動きがあった際には免税事業者はインボイス制度に登録することを検討することも必要でしょう。
太陽光発電所を売却する側が適格請求書発行事業者であれば特に問題はありません。
免税事業者が太陽光発電所を売却する際は、既述の通り買い手からの価格交渉や買い手が見つかりにくいという可能性があります。
そのため、現在太陽光発電所の売却を考えている免税事業者はインボイス制度が始まる前の2023年9月末までに太陽光発電所を売却してしまうことで消費税の問題をクリアできます。
つまり、自分は益税を受け取れる一方、相手先(買い手)は仕入税額控除を行うことができます。
では、免税事業者がインボイス制度に登録した場合はどうなるのでしょうか?
インボイス制度に登録すると免税事業者としてのメリット(消費税を納税しなくてよい)を失って消費税の納税義務を負うことになります。
一方で適格請求書を交付することができるため、太陽光発電所を売却する際に買い手(課税事業者の場合)は仕入額控除を行えます。そのため、買い手からの消費税分値引き等の価格交渉を最小限に抑えられるでしょう。
また、インボイス制度に登録すると消費税の納税義務がありますが、簡易課税を利用すれば事務負担が大幅に軽減されます。
さらに、免税事業者が適格請求書発行事業者となった際に利用できる「2割特例」の対象事業者であれば、この2割特例を利用する方がよい場合があります。
(注)2割特例を利用しない方がよいケースもあるので税理士等の専門家に確認してください。
2割特例について
免税事業者がインボイス制度の導入を機にインボイス発行事業者として課税事業者になったとき、税負担・事務負担を軽減するため、売上税額の2割を納税額とすることができます。
納税額が預かり消費税の2割に収まることから「2割特例」といいます。対象となる事業者
免税事業者からインボイス発行事業者になった事業者(2年前(基準期間)の課税売上が1000万円以下等の要件を満たす)
対象となる期間
令和5年10月1日~令和8年9月30日を含む課税期間
※個人事業者は、令和5年10~12月の申告から令和8年分の申告まで例:売上800万円(税額80万円)※サービス業。経費200万円(税額20万円)
実額計算の場合:80万円-20万円=60万円
簡易課税の場合:80万円-40万円=40万円 ※80万円×50%(サービス業のみなし仕入率)
これが特例の場合には、
80万円×2割=16万円
となります。
通常、消費税の申告を行うためには経費等の集計やインボイスの保存等は必要となります。
この2割特例を適用すれば、所得税・法人税の申告で必要となる売上・収入を税率別(8%・10%)に把握するだけで申告書が作成できます。
事前の届出は不要で、申告時に適用するかどうかを選択します。
ここまでインボイス制度スタートによる太陽光発電投資への影響について解説しました。ここからは一般的なインボイス制度の解説を行います。
売り手は買い手の求めに応じてインボイスを交付します。
インボイス(適格請求書)を交付するためには適格請求書発行事業者になる必要があります。
適格請求書発行事業者になるためには、税務署にインボイス発行事業者の登録申請書を提出して適格請求書発行事業者として登録を受ける必要があります。
適格請求書発行事業者として登録を受けることができるのは課税事業者だけです。
免税事業者の場合は、事前に課税事業者になるための手続が必要となります。
適格請求書発行事業者の登録を受けると割り当てられる番号のことで、事業者ごとに異なる番号になります。
登録番号は次のようになります。
・法人番号を有する課税事業者
「T」(ローマ字) + 法人番号(数字13桁)
・上記以外の課税事業者(個人事業者、人格のない社団等)
「T」(ローマ字) + 数字13桁(注)
登録番号は、適格請求書(インボイス)を交付する際に記載する必要があります。
なお、登録番号は国税庁の適格請求書発行事業者公表サイト(https://www.invoice-kohyo.nta.go.jp/)で検索が可能なので、免税事業者が虚偽の番号を請求書に記載しても相手にバレます。
インボイス制度が2023年10月に開始された後は、適格請求書以外の請求書では仕入税額控除を受けられません。
取引先が適格請求書発行事業者であれば適格請求書を交付してもらうことで仕入税額控除を受けられます。
一方、免税事業者等の適格請求書発行事業者ではない相手との取引がある場合、課税事業者は仕入税額控除を受けられません。
しかし、インボイス制度開始から一定の期間内は適格請求書発行事業者以外からの課税仕入の場合でも、仕入税額相当額の一定割合を仕入税額とみなして控除できる経過措置が設けられています。
この経過措置により、課税事業者は適格請求書発行事業者以外からの請求書でも一定割合の仕入税額控除を受けることができます。
仕入税額控除の経過措置期間は次のとおりです。
2023年10月1日〜2026年9月30日:80%控除
2026年10月1日〜2029年9月30日:50%控除
2029年10月1日〜:控除なし
計算例:課税事業者が免税事業者から5,500円の商品を現金で購入(80%控除の場合)
消費税の計算上、課税仕入にかかる消費税500円のうち、20%分にあたる100円は控除できないため、商品代として計上します。
商品 5,100円 / 現金 5,500円
仮払消費税 400円
なお、経過措置を受けるためには、経過措置を受けることを記載した帳簿と必要事項が記載された請求書の保存が要件となります。
2019年10月1日に消費税が8%から10%に引き上げられた際、低所得者への配慮の観点から「酒類・外食を除く飲食料品」と「定額購読が契約された週2回以上発行される新聞」は税率を8%とする軽減税率制度が実施されました。
この軽減税率の導入により消費税率10%と8%の複数税率が存在することになったため、区分経理に対応した帳簿及び区分記載請求書等を保存する方式として、2019年10月1日から導入されたのが区分記載請求書等保存方式です。
従来の請求書の記載項目は下記の5つでした。
・請求先の氏名または法人名等
・作成者の氏名または法人名等
・取引年月日
・取引内容
・取引金額
区分記載請求書では上記5つに加え、
・軽減税率の対象品目である旨
・税率ごとに合計した税込対価の額
の2つが追加されました。
なお、区分記載請求書の発行は義務でなく任意で、売り手・買い手の両者の合意があれば区分記載請求書ではなく従来の請求書を発行することができます。
区分請求書等保存方式はインボイス制度導入までの経過措置で、適用されるのは2023年9月30日まです。
2023年10月1日からはインボイス制度(適格請求書等保存方式)に変更となります。
登録制度の有無や免税事業者との取引における仕入額控除対象の可否など、いくつかの違いがあります。
(図参照)
また、2023年9月末までは取引先が発行した請求書によって仕入税額控除の適用を受けられますが、インボイス制度が始まる2023年10月からは仕入税額控除の適用を受けるためには取引先(売り手)である登録事業者から発行を受けた適格請求書(インボイス)の保存等が必要となります。
適格請求書発行事業者に登録するかどうかについては事業内容や取引先等の様々な状況を踏まえた上で判断する必要があります。
ここでは取引先について考えていきます。
自社が免税事業者で販売先が課税事業者の場合、販売先は仕入税額控除を行うことができないため税負担が増加します。
そのため、販売先から取引を見直される可能性があります。
強引な取引内容の変更等は独占禁止法や下請法等で問題になる恐れがありますが、これらの法律に抵触しない範囲での一定の要請があることは予想されます。
東京商工リサーチが2022年12月に実施したアンケート調査では、インボイス制度に登録しない免税事業者との取引について、「取引しない」と回答した企業が1割強(10.2%)に達しています(2022年8月の前回調査時の9.8%から0.4ポイント上昇)。
アンケート実施時期が半年以上前なので現時点での情勢とは乖離があるかもしれませんが、取引先の意向等を把握しておく必要があると思われます。
また、免税事業者との取引を継続すると表明している場合であっても、「経過措置」の期間が終了すれば取引の見直しが行われる可能性がありますので注意が必要です。
今回は2023年10月からスタートするインボイス制度がどのように太陽光発電投資へ影響するかを解説致しました。
制度スタートによって最も影響が大きいと思われる取引は免税事業者が太陽光発電所を売却する場合です。この場合、買い手は仕入税額控除を行うことができません。そうなると、買い手からは消費税分を値引きしてほしいという価格交渉が入る可能性、さらに買い手が敬遠し売れなくなるということも考えられます。
そのため、現在太陽光発電所の売却を考えている免税事業者はインボイス制度が始まる前の2023年9月末までに太陽光発電所を売却してしまうことで消費税の問題をクリアできると思われます。
弊社クラベールは中古太陽光発電所の買取や売却の仲介サービスを提供しています。買取ご希望の場合は査定後短期間で現金化可能です。また、仲介をご希望の場合は発電所の査定後、買主様との交渉から契約手続きまで専任担当者がサポートさせていただきます。
売却ご検討の場合はお気軽にフリーダイヤル0120-156-226または専用WEBフォームよりお問い合わせくださいませ!
この記事を書いた人:澤井 孝夫
株式会社バイタルフォース代表取締役